christies.comから、試訳。
https://www.christies.com/lot/lot-6381166

王妃マリー・アントワネットのために制作された「エトルリアスタイル」の肘掛け椅子。

制作者はジョルジュ・ジャコブ。ヴェルサイユ宮殿王妃の小部屋に1788年頃に納入。19世紀初頭に金箔処理。

Image: Christies

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来歴

1788年、フランス王妃マリー・アントワネットのヴェルサイユ宮殿王妃の小部屋の寝室(chambre à coucher)に納入
1973年12月27日、革命セール時に3000リーブルで市民デュモン(Citoyen Dumont)に払い下げられた。
個人蔵

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Lot Essay

フランスネオクラシック様式の家具の傑作。この美しく彫られた「エトルリアスタイル」の肘掛け椅子は、著名な家具職人ジョルジュ・ジャコブがマリー・アントワネットに1788年に納めた記録に残る最後の発注品の中の一脚だ。

マリー・アントワネットは、子供達の側で過ごせるようにヴェルサイユ宮殿の2階に広くプライベートな部屋を望んでおり、1782年に亡くなったルイ16世の叔母マダム・ソフィーの部屋が割り当てられた。

大理石の中庭と大運河を臨むこの3部屋の豪華な改装工事は、1783年11月に始まった。取り急ぎマダムロワイヤルや第一皇太子誕生時の部屋の家具(mobilier de Couches)を再利用していたが、ようやく1788年になってマリー ・アントワネットは最新流行のデザインで家具一式を注文した。ベッドはマホガニーで制作し、椅子はブナ材で白とグレーで塗装した。

家具一式はマリー・アントワネットの私的家具倉庫管理官ボニュフォア・デュプロン(1732-1824)を通して注文したが、当然のことながら、王妃のお気に入り椅子製作者ジョルジュ・ジャコブに椅子一式を依頼し、今回の肘掛け椅子はその中の1脚だ。正式に一式に含まれるのは、布張り肘掛け椅子2脚、肘掛け椅子4脚、長椅子2脚、丸椅子2脚、屏風1隻、スクリーン1枚、コルベイユ*(キャピネット)1台、全て青いシルクで制作された。

大きいパルメット*、ヴィトルヴィアンスクロール*、ピラスター*、列柱*など、椅子一式は18世紀末期に発展し画家ユベール・ロベール(1733-1808)の絵画によりフランスで人気を博したスタイル「エルトリア」風でデザインされた。このスタイルは、18世紀後半に南イタリアで出土した古代発掘品から流行したもので、発掘当時はエトルリア人が制作したものと誤まって認識されていた。国王ルイ16世と王妃マリー・アントワネットは殊の外このスタイルが気に入り、ジャン=バプティスト・フラール(1725-1789)が1785年に制作したコンピエーニュ宮殿の国王の浴室用ベッド(inv. V899)など関連の家具の制作時に依頼した。最も有名なエトルリアスタイルの注文は、おそらくダンジヴィレー伯爵が指揮を取り1785年にランプイエ宮殿の王妃の酪農場のために制作された家具調度品で、ジョルジュ・ジャコブ制作マホガニー製椅子一式(プティトリアノンに現存)とセーブル工房制作の食器だろう。

革命勃発時、1789年に国王一家は慌ただしく出立したので、家具調度品全てを宮殿が保管することになった。一時ヴェルサイユ宮殿は取り壊される懸念が取りざたされたが、実際には1792年に王制が崩壊した後に宮殿は存続し、国民公会は宮殿内家具調度品を売却することを決定した。1793年の1年間で全て処分され、今回の肘掛椅子を含む17,000点以上が散逸した。革命暦2年霧月13日(1793年11月3日)、室内装飾品「en pou de soie bleu」と記載された一式全てが出品されたが買い手がつかず、革命暦霜月7日(1793年12月27日)に再出品され、ヴェルサイユ出身の市民デュモンが3000リーブルで購入した。

この一式の中から、今回の椅子と同じ肘掛椅子3脚(inv. VMB14381)、布張り肘掛け椅子1脚(inv. Vmb14381)、化粧用肘掛け椅子1脚(inv. V5084)、椅子2脚(inv. V4824)、スツール1脚(inv. V5274)、足台1脚(inv. V5416) をヴェルサイユ宮殿が買い戻した。1945年から1987年にかけて徐々に買い集められ、マルゲリータ・ジャリュがいくつかのシートレールに貼付されていた判読可能なラベルをもとに特定した。ラベルには「王妃向けヴェルサイユの寝室(chambre à couche)へ」と記載されていた。

fauteuil
Nº d’inventaire: VMB 14381.2
Auteur: Jacob, Georges
collections.chateauversailles.fr/

<<<<<参照>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>

*corbeille
https://journals.openedition.org/crcv/13561

「コルベイユ」という用語は、元々、中身を保護するために布で覆われた籐のバスケットを指し、花嫁が持参するものとしてすべての社会階級で使用されていた。その後に進化し、宝石用クローゼットなど花嫁の社会的地位に応じて、精巧なトランクまたは装飾されたキャビネットの形を取った。中にベッドリネンやテーブルリネン、貴重なレース、刺繍生地、ジュエリー、ショール、毛皮、衣類、その他のアクセサリーなどをいれた。ウェディングコルベイユはルネッサンス時代から19世紀までファッショナブルであり、洗練された家具の生産に支払う手段を持っていた高貴な一家または貴族が独占的に注文した。 17世紀には、「ウェディングコルベイユ」という用語は、「ウェディングチェスト」という用語と同じ意味で使用されることが多く、そのより精巧な形は、社会的地位と富の象徴となった。

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*palmettes
https://en.wikipedia.org/wiki/Palmette
パルメット

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*Vitruvian scroll
https://encyclopedia2.thefreedictionary.com/Vitruvian+scroll
ヴィトルヴィアンスクロール

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*pilasters
https://en.wikipedia.org/wiki/Pilaster
ピラスター

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*columns
https://en.wikipedia.org/wiki/Column
列柱

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