ラファエロ初期の絵画「聖母の結婚」の解説です。
Smarthistoryのビデオと、字幕の試訳です。

***

ここはイタリア、ミラノのブレラ美術館です。私たちは今、ラファエロの初期代表作を見ています。この絵画を描いたときは、まだ20代前半でした。

Image: Wikipedia

主題は「聖母の結婚」で、「黄金伝説」という書物に書かれています。この書物は中世に制作され、基本的に聖書に描かれていない物語を埋めるように書かれています。信仰深いキリスト教文化を見てみると、信者は聖なる物語を理解しようと聖書を読みます。ところが、省略されている部分が多数あります。あまりにも多くの物語が省かれているため、聖書の物語をつなぐための物語が制作されました。それを集めたものが、今日「黄金伝説」と呼ばれている書物です。

この物語は、聖母マリアと聖ヨセフの結婚について描かれています。それによると、マリアには求婚者が複数いました。求婚者はそれぞれ小枝を手に持っています。マリアは花が咲いている小枝を持っている求婚者と、結婚することになります。奇跡的に咲いているのは、言うまでもありませんね。そして、登場人物は神殿に集まり、花が咲いている小枝を持っているのは聖ヨセフです。この絵画では、見事な黄色の織物を肩と腰周りにまとっている聖ヨセフが、指輪をそっと聖母マリアの指にはめています。左手で小枝を持ち、実際に先端には花びらがあります。ヨセフの背後には他の求婚者がいて、その手の小枝には花が咲いていません。そのうちの1人、前景にいる求婚者は苛立ち、小枝を膝で折ることにしました。これは、素晴らしい人間描写で、単に聖なる出来事が描かれているだけではありません。私たちの目の前でパフォーマンスをしています。

まさに画面中央に、聖母マリア、聖ヨセフ、聖職者がいます。この絵画は神殿を背景に、いろいろな手法で左右対称に描かれています。そして遠近法の空間が合理的に構築されています。聖母マリアと聖ヨセフの間にいる聖職者は、頭をやや傾けていて中央からすこし外れています。実際、人物像のグループには少し秩序の乱れが見られます。人々はあちこちに動き、視線があちこちに散らばっています。

この絵画は、しばしば、ラファエロの師匠だったペルジーノが描いた「天国の鍵をペテロに手渡すキリスト」と比較されます。

Image: wga.hu “Christ Handing the Keys to St Peter” by Perugino

このラファエロの初期作品には、現代の私たちが知っている盛期ルネサンス様式の兆候を見ることができます。つまり、15世紀の堅苦しさ、初期ルネサンスの硬直性とは相反する表現を見ることができます。ラファエロの人物像は、やすやすとしなやかに動いているように見えます。ここで誤解してはならないのは、この絵は、まだ、明らかにペルジーノの影響を大きく受けています。ただし、まさに前述のように、ラファエロは師匠の陰から踏み出そうとしています。ラファエロは署名しています。神殿の正面を詳細に見ていくと、Raphael Urbinus、ウルビーノのラファエロと書かれています。。

スクリーンショット

Raphael signature (screenshot)

そして、特に聖母マリアは優美さを醸し出していて、非常に優しく描かれています。素敵なコントラポストで立ち頭を下に傾けている聖母マリアは、ラファエロ特有の甘美さにあふれています。

スクリーンショット 2014-10-02 11.04.30

Screenshot

初期ルネサンスは、しばしば、私たちが生きている世界で見ているものの真実を描きだそうと試みる一方、この絵では、完璧性、バランスのとれた調和した理想的な天上のような場所を描こうとしています。理想的な美、完璧性、調和性は、盛期ルネサンスに関連づけられる特色です。この特色が背景に反映されています。線遠近法を目で追っていくと、また、前景人物像のフリーズの背後にある敷石が形作る直交点まで目をやると、背景の中央に設計された神殿があり、盛期ルネサンスの建築家や芸術家が理想と考えていた形をしています。たとえば、ブラマンテが設計したテンピエットもその一例です。

Image: Wikipedia “The Tempietto within a narrow courtyard.”

この神殿は素晴らしい建築物です。線遠近法が視線を導く方法が気に入っています。人物像のフリーズの背後から奥へと導き、小さな人物像が描かれたアーケードをぐるりと眺ます。そして、視線は出入り口に戻り、建物の中を通って反対側の出入り口に導かれます。さらにその先に空が現れます。奥の出入り口の大きさが手前よりも縮小されて、空間を完璧に描こうとしていることを感じさせてくれます。人物像の大きさが空間の奥へいくほど変わっていくという手法を使い、空間のイルージョンを創り出す情熱が見て取れます。建築物と人物像の間に、片方が一方を高め、また、片方がもう片方と同様に理想的で完璧であるという盛期ルネサンスによくある本物の調和が表現されています。それは、最も初期とはいえ盛期ルネサンスの瞬間です。もちろん、これから起こることを現代の私たちが考えて見ているのですが。

Raphael, Marriage of the Virgin, 1504

Published on 16 Apr 2013 by Smarthistory, Art History at Khan Academy