smarthistory.orgの解説を試訳

*******

絵画・彫刻が現在バロックと呼ばれている時代に制作されたものかどうかをどのように見分けるのでしょうか。バロック様式はどのように認識するのでしょうか。

それでは、ベルニーニ作の有名な彫刻、旧約聖書の物語の巨人ゴリアテを負かしたダビデを見ていきましょう。

Wikipedia: David (Bernini)

今、この彫刻の前に立っています。ダヴィデは今まさに石を投げようとしているところです。自身の持てるエネルギーを全て発散しようとしています。眉毛が固く合わされている様子を見てください。唇を噛み締めている様子を見てください。ベルニーニは人体を観察し、ルネサンス時代に習得された自然主義をすべて理解し、ただし、それを激しい感情表現に向けています。

この姿勢はほんの一瞬だけこのようにできるものです。人体自体はルネサンス様式の典型だった安定性とは袂を分かっています。ベルニーニの人体はよじれ、今にもエネルギーを発散しようとしています。はりつめたバネのようです。今言った通り、この姿勢は一瞬だけしか保てません。

対角線が見えます。そして、単なる直線の対角線ではなく、相関関係があるアーチ状の対角線です。そのため相当なエネルギーが見て取れ、それは人体表現の成果のみならず、ベルニーニが大理石から彫り出している形と線そのものです。そして、それが見ている私たちを人体像が巻き込む手法の一部です。人体像は私たちの空間に入り込んできます。

ミケランジェロのダヴィデは私たちと適度な距離を保っていて、その理想美が私たちを瞑想させます。ところが、バロック芸術は別のものです。私たちの心に語りかけるというよりは、私たちの身体に訴えてきます。私たちの感情に訴えてきます。ミケランジェロのダヴィデは神のようです。つまり、ミケランジェロは彫刻像の純粋で線的な特徴をあまり犠牲にしようとしていません。

Wikipedia: David (Michelangelo)

ミケランジェロの人体の線はほとんど遮るものがありませんが、ベルニーニはまさに意図的に腕が人体を交差し、その対角線はエネルギーを生み出すとともに理想という概念から離れていきます。他にもベルニーニの構図の複雑性が可能にしている重要な点があります。それは光と闇のコントラストです。ミケランジェロのダヴィデは平面的であるため大理石全体が光に当たるので、深い影はできません。ベルニーニは、姿そのものが交差しているので、最も明るい部分と影の部分のコントラストが彫刻をさらに活気づけています。

それでは、絵画ではどうでしょうか。一例としてイタリアバロックの画家カラヴァッジオを見てみます。

Wikipedia: Crucifixion of St. Peter (Caravaggio)

これはすばらしい絵画でとても力強く、まさにベルニーニのダヴィデのようです。私たちは何かとても近いものに直面しています。これは聖ペテロで、キリストが死んだ方法で死ぬのは恐れ多いと言って、逆さ磔にするよう求めましました。

ここでは、ペテロが十字架に釘づけされています。十字架の底部分は触れることができそうなくらい至近距離に感じられます。つまりベルニーニのダヴィデが私たちの空間に向かってきたように、カラヴァッジオは遠近短縮方で描いています。その上、非常な不安定感をも創り出しています。十字架が今持ち上げられようとしているところを見てください。ペテロや材木の塊が重すぎるのではないか、ペテロが大きな音を立てて倒れるかもしれず、すべてが偶発的で動いているように感じられます。

そして、ここでも十字架で対角線が描かれ、同時に、十字架を持ち上げる手助けをしている人物の背中とその下で背中で持ち上げようとしている人物が別の対角線を形成しています。十字が交差する対角線ができ、それはバロック芸術でよく用いられる対角線です。ベルニーニの彫刻と比較すると興味深くなります。ベルニーニは作品を360°作り上げているからです。カラヴァッジオは形のイルージョン、塊のイルージョンを作り出していて、それを可能にしているのが光と影のはっきりとしたコントラストを作り出していることで、まさにベルニーニが彫刻で躍動性とエネルギーを作り出しているのと同じです。

ここに暗い背景と明るく強調された人物像が描かれ、もう少しで手が届き触れられるような真実性を作り出しています。ルネサンス絵画は空間のイルージョンを描くこと、人物像の背景に建築物や風景を描くことでしたが、カラヴァッジオはすべてが前景へ飛び出してくるように暗闇を描きました。感情的、親密で、本物を感じごく身近なものを感じます。そして私たちの身体に届きます。

聖ペテロの足がどんなに近いか見てください。その上、釘が足を貫通しているのを見ることができます。手の釘が見えます。ここでは、たとえ暴力的であっても見るものを感情的に巻き込むことに関心があります。重心がシフトして上がっているため不安定になっているところが面白いと思います。

安定性と調和に重きを置いた盛期ルネサンスのラファエロの絵画と比べてみましょう。

Wikiart: The Virgin and Child with Saint John the Baptist

ラファエロのこの絵画の人物は、最も安定性のある形のピラミッド状に配置されています。人物には明白な光が当たり、この3次元空間の中に配置されています。私たちは前景から中景そして背景深くに目を動かすことができます。

そして、ラファエロは見るものにできる限りの情報を提供する機会を楽しんでいます。それは、前景の3人の人物像のみではなく、その向こうの自然界をも、一方、カラヴァッジオは見るものが焦点を当てるものについて非常に注意深くなっています。

聖母の美しい顔を見てください。女性像は特定の人物ではなく神の聖母です。ところが、ペテロは実在の人物です。特定の男性でその生涯の特定の時点です。そして、塵や乱れた衣類が描かれています。盛期ルネサンスに見るよりかなり現実的な世界です。

これまで見てきた芸術作品はすべてイタリアで制作されたものです。

これらと同様の特徴をアルプス北の芸術に見られるでしょうか。ルーベンスの絵画になら見ることができます。ルーベンスの十字架を持ち上げる絵には、対角線や光と闇の劇的なコントラストを見ることができます。

Wikipedia: The Elevation of the Cross (Rubens)

プロテスタントの地域に住んでいる芸術家はどうでしょうか。

これまで見てきた特徴は、カトリックのバロック芸術に関する特徴で、信者を鼓舞することを目的としています。オランダでは、カトリックのヨーロッパにある祭壇画とはかなり異なる絵画を見ることになります。それは、プロテスタントの国では、芸術家はもはや教会の祭壇画の注文を受けなかったからです。

これまで見てきたバロック芸術とは正反対と思われるものを見てみましょう。

Wikipedia: Woman with a Water Jug

フェルメールの「水差しをもつ女」です。聖書物語の代わりに日常の室内の場面が描かれています。北ヨーロッパの裕福な女性が家にいる場面です。そこで、何がこの絵をバロック様式にしているのでしょうか。

この絵のすべてが静寂です。光は柔らかく当たっています。カラバッジオに見た光の劇的性と暴力性とはとても違います。その代わり、フェルメールは光のわずかな転調や色調のわずかなグラデーションを好んでいるようです。特に頭の被り物を光が通過する様子を見てください。または、女性が窓を開けている右腕を見てください。

女性は直線の形状に囲まれています。窓や右上の地図の四角形、右下テーブルの四角形。女性はその間の空間に存在しています。ところが、女性は周りの環境が打ち立てている静寂と幾何学模様に動いて抗っています。水差しを取るか置くかして、窓を開いて、その間の瞬間を捉えています。

それから光でさえ、外から差し込む光と室内の明かりが、中間にあるようです。この光、カラバッジオの劇的性であろうとフェルメールの繊細さであろうと、光に対する関心がバロック芸術です。この絵画は繊細な移ろいを描いています。それが光の繊細な移ろいであろうと、女性のたらいと水差しから窓への注力の繊細な移ろいであろうと光の移ろいを描いています。

私たちは女性の近くにいます。まるで手が届きそうに感じ、テーブルを覆う布を感じられそうです。カラヴァッジオやベルニーニに感じた近さをこの絵にも見ることができます。

これまで異なる種類の絵画を見てきましたが、17世紀オランダ風景画にバロック様式を見てみましょう。ロイスダールのすばらしい「漂白場」の絵画です。ただし、この絵画は理想的な風景画ではありません。

Screen Shot

Screenshot

これはロイスダールの故郷ハーレムの風景です。この絵を風景画と呼んでいますが、実はこの絵は雲を描いたものです。巨大でボリュームのある形状が空一面に描かれている様子を見てください。目の前で雲が形を作り形を解くのが見えます。これはやはり推移を描いたもので、これらの雲が影を投げかけそれが下の大地を横切りながら交互に野原を作り出しています。

つまり、バロック芸術とは時間についてであり、劇的であろうと繊細であろうと光の効果であり、見ている者を巻き込みこちらの空間へ入り込み、私たちと芸術作品の間の障壁を打ち壊す芸術です。それは、対角線を用い、エネルギーと劇的な効果を用い、その劇的性は繊細なこともありますがそれでも劇的です。私は、バロッックとは常に主題と直接関係性がある芸術だと思います。

*

How to recognize Baroque art

Smarthistory. art, history, conversation.Published on 10 May 2016
A conversation with Dr. Steven Zucker and Dr. Beth Harris about how to recognize Baroque art.

*

Save

Save

Save

Save

Save