<解説の試訳>

ラファエロ作「ガラテイア(1513頃)」とヴィラ

夏は室内が暑く、裕福な市民は市壁のすぐ外側に別荘であるヴィラを建てました。私たちは今そのような隠れ家の一つファルネジーナ荘にいます。美しい庭園を歩いてきました。川に向かって窓のある小部屋は、そよ風を引き入れて夏の室内空間を涼しくしています。

窓枠には装飾的なフレスコ画やイタリアの風景画が描かれ、天井のフレスコ画は占星術のシンボルで注文主であるキージの誕生日を教えてくれます。キージは裕福な銀行家で、新しいサン・ピエトロ大聖堂の北側の建物でユリウス二世の法王庁の財務を担っていました。キージを表すのに富豪というよりは「とてつもなく富豪」と呼ぶのがふさわしいと思います。

ヴィラで最も有名な絵画は、ラファエロ作「ガラテイアの勝利」です。ガラテイアは海のニンフで、ホメロスのオデュッセイアや他の神話にも登場する片目の巨人ポリュフェモスに追われています。ラファエロの絵画は裸体で描かれ、ラファエロが人体の解剖学的構造に造詣が深いことを示すすばらしいトルソーが描かれています。人体のポーズは、その複雑さがまさに盛期ルネサンスの典型だと思います。

この渦巻くよじれた人体表現は、ほぼ同時期に制作されたミケランジェロの奴隷の彫刻にも見てとれます。ガラテイアは貝殻に乗りイルカに引かれています。それでも十分ではないかのように、風が右に強く吹いて髪の毛と襞のある衣装がほぼ水平に右にたなびく一方、両手で左側のイルカの手綱を握り、ねじれを見事に引き立たせています。

構図全体に一方に引かれながら他方に引かれているのを見ることができます。ガラテイアを囲む海のニンフと海の生き物を見ると、外に向かって動きガラテイアを別々の方向へ引いています。別々の緊張感があります。例えば、前景のニンフはガラテイアを左に引こうとするところを男性像に抑制されています。後景の人物像はそれぞれ別の方向へ動いています。

このような動きがあっても、このフレスコ画はバロック様式ではなく盛期ルネサンス様式です。ここには明白性や秩序の感覚がまだあり、実はピラミッドの形で描かれています。ガラテイアは3つの人物像グループに囲まれています。右側にはニンフとイルカのグループ、前景にはおそらくキューピッドである天使像、そして、左には複数のニンフが描かれています。また、上部にはプッティが弓を引きながらガラテイアを見て今にも矢を射ようとしています。動きと渦巻きと同時に安定感と均衡があります。また、遊び心も見て取れます。上部の弓矢をもっている複数のプッティをもう一度見て見てくだい。そこには、実は、4人目の矢筒をもったプッティがいて、雲に隠れながらこの攻撃をまるで企んでいるかのように見えます。それとも、他の3人のプッティに矢を渡しているのかもしれません。

人物像はミケランジェロを思い起こさせます。ガラテイアの筋肉組織や海の生き物たちの背中の筋肉を、ラファエロがどのように際立たせているか見てください。ここには肉体表現や筋肉組織に対する真摯な関心があり、ボッティチェリのヴィーナス誕生に描かれた裸体の女性が海から現れる同様の人物像とは明らかに違います。そして、線描画が中心のボッティチェリとは異なり、光と影やキアロスクーロを用いて身体の筋肉を引き立てています。ボッッティチェリの重量感のない人物像とは異なり、しっかりとした重みがあります。また、ボッティチェリの人物像は平面的で装飾的なため躍動感がありませんが、ラファエロの人物像は全空間を動いています。たとえば、左下の大きな男性像を見てください。そして、その肩がこちらに向かっている表現を見てください。これは、ボッティチェリのより装飾的な絵画では見ることはありません。

これらのフレスコ画をあまりまじめに捉えないほうがいいと思います。つまり、もちろん古代ギリシャ・ローマに関心を寄せる盛期ルネサンスのすばらしい表現ですが、ここでは楽しみを描いているのです。富と愛について描いています。そして、これらのテーマは注文者の関心事に関係しています。注文者は楽しむことができる豪華絢爛なヴィラを建てたのですから、私たちも楽しみましょう。

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Published on 16 Aug 2012