Wilton Diptych

Unknown artist, The Wilton Diptych, c. 1395-99, tempera on oak panel, 53 x 37 cm (The National Gallery)

作者不詳、ウィルトン二連祭壇画、1395年-1399年頃、カシの木のパネルにテンペラ画、53 x 37 cm (ナショナルギャラリー)
Speakers: Dr. Steven Zucker & Dr. Beth Harris

(Translation of speech / スピーチの意訳です。)

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Published on 27 Aug 2013 by Smarthistory, Art History at Khan Academy

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ロンドン・ナショナルギャラリーにあるウィルトン二連祭壇画を見ていきます。名前の由来は、ナショナルギャラリーに収蔵される20世紀初頭まで、この作品を所蔵していた一族にからきています。

Image: wiltonhouse.co.uk

これは二連祭壇画です。つまり、2枚のパネルが蝶番で留められ、たたんで中を保護するように作られています。持ち運び可能な祭壇としても使うことができました。この祭壇画は高貴な人物が所有していました。イングランド国王リチャード二世の為に制作され、同国王が所有していました。

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この祭壇画は非常に珍しく、また、贅沢に作られています。何度も使われた形跡が見て取れますが、少なくとも、中側の状態は良好です。

左側のパネルには、金地背景に4人の人物像が描かれています。背景をよく見ると、道具で打ち込まれた飾り細工で装飾され、とても繊細なレース模様になっています。つる草とわかり、非常に入り組んでいます。

3人の人物像は、左が聖エドマンド、中央が聖エドワード懺悔王、そして右側に立っているのは洗礼者ヨハネ、そして、跪いているのがイングランド国王リチャード二世です。人物像はそれぞれ持ち物によってそれと分かります。聖エドマンドは殉教に使われた矢をもち、聖エドワードは奇跡を行ったことに関連する指輪をもち、洗礼者ヨハネは子羊を抱いています。そして、もちろん、国王は紋章である白雄ジカや鹿と真珠の鎖を、衣装と首周りにつけています。

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このうち3人はイングランド国王で、王冠を被っています。聖エドマンドとエドワード懺悔王はことのほか信心深く、後に聖人に列せられました。この祭壇画に描かれているリチャード二世は、敬虔に跪いています。

反対側のパネルには、天国の情景、楽園の園が描かれています。少々混雑していますが、素晴らしく優美に描かれています。国際ゴシック様式で描かれ、人物像はとても洗練されています。

聖母マリアが幼児キリストを抱き、多数の天使に囲まれています。ある歴史家によると、リチャード二世がイングランド国王になったのが11才の時だったので、天使が11人描かれているということです。

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ここで何が起きているのか見ていきましょう。幼児キリストを抱く聖母マリアは、キリストの足を掲げ、磔刑時に釘が打たれることを暗示しています。キリストは母親から離れ国王の方に身を寄せており、2枚のパネルのリチャード二世と聖母子の関係性を示しています。キリストは、天使が掲げ持つバナーをつかもうとしているかのように見えます。バナーを持つ天使は、キリストを見上げています。パネル上部には、イングランドの守護聖人セント・ジョージのクロスが見えます。バナーの先端には、銀色の海の中央に浮かぶ島が描かれ、島には城が建っています。200年後にシェイクスピアが小説「リチャード二世」に「this little world /”This precious stone set in a silver sea” (この小宇宙。銀色の海に浮かぶ宝石)」と書き、イングランドのことを記述しています。

この祭壇画の制作年代とシェイクスピアが活躍した年代は明らかです。この祭壇画はシェイクスピアよりかなり前に制作されました。そこで、シェイクスピアがこの絵を見たのか、両方とも同じ資料を参照したのか、その他どのような関係があったのか、今となっては知る由もありません。ただ、とても興味をかき立てられます。言わんとすることは、リチャード二世がイングランドを納める王権を聖母マリアとキリストから授かるということです。

リチャード二世を囲んでいる国王に目を留めてみてください。その例に倣おうとしているいわゆる敬虔な国王、信仰心厚い国王です。もちろん、聖母マリアとだけではなく、洗礼者ヨハネとも特別な関係性があります。それぞれのパネルの人物像がお互いを見つめていることで、別世界に身をおく者同士が対話しています。右側のパネルの人物像には、より存在感が感じられます。キリストを除き全員がリチャード二世の紋章をつけています。すべての天使の胸に白牡ジカが見えます。リチャード二世の権威を表す聖なる王権を、天国から直接授かっています。と同時に、天使があたかも宮廷の従者であるかのようにも見えます。

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この祭壇画はすばらしく装飾的です。下部の見事な庭園もさることながら、天使の翼も見事です。キリストの黄金の後輪を注意深く見てみると、画家が茨の冠のモチーフをそっと描いているのが分かります。聖母マリアがキリストの足を差し出していることと、茨の冠をほのめかしていることで、キリストが十字架で犠牲になることで私たちの罪があがなわれることを示しています。

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また、茨の冠の暴力性と天使がかぶるバラの花の冠との途方もない対比が見て取れます。この祭壇画は、まさに目を見張らせる作品です。

外側のパネルを見てみましょう。こちらには、大きくシンプルな絵が描かれています。右のパネルには、リチャード二世の紋章である白牡ジカが描かれています。シカの首には王冠があり、そこから鎖が垂れ下がっています。シカの角は金地背景に溶け込むように見え、ようやく輪郭がわかります。また、シカはローズマリーの野原にいますが、この植物もリチャード二世の紋章の一部です。

反対側のパネルには、フランスとイングランドの紋章が見られます。フルール・ド・リと、3匹のライオンがかろうじて見えます。左側には、十字の紋に5羽の鳥、そしてその上部にライオンが描かれています。

外側のパネルは内側ほど状態がよくありませんが、それももっともなことです。外側のパネルは内側のパネルを保護するためのものなので、役割を果たしたということです。ウルトラマリーンや金がふんだんに使われているので、かなり高価な祭壇画だったことでしょう。この作品全体が貴重で宝石のように感じられます。